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2018
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『隠し砦の三悪人』レビュー

 第二十八回目のレビューは、春学期(おそらく)最後の上映会で流した『隠し砦の三悪人』(黒澤明、1958年、139分)についてです。普段は上映会で流した映画のレビューは書かないのですが、黒澤明なので。


 ストーリーは以下。
 いつも口喧嘩ばかりの太平(千秋実)と又七(藤原釜足)は、百姓ながら褒賞を期待して秋月家と山名家の戦に参加するが、何もできないまま秋月の城は落ち、勘違いから山名の捕虜にされてしまう。夜、捕虜たちの反乱に乗じて二人は逃亡し、自分たちの村へ向かう途中のある谷でひょんなことから秋月の紋章が入った金の延べ棒を見つける。そこに、謎の屈強な男(三船敏郎)が現われ、二人の帰郷のための賢い計画を聞き、二人を隠し砦に連れて行く。男は秋月方の名うての侍大将、真壁六郎太であり、隠し砦には城から落ち延びた秋月の後継者雪姫(上原美佐)や重臣たちが潜んでいた。しかし、太平と又七はそれを知らぬまま、六郎太のことを金目当ての男としか思っていない。紆余曲折あり、六郎太は雪姫とともに、太平と又七を金で釣りながら、秋月再興のための軍資金を同盟している早川の領地へ運び出す旅に出るが、道中はさまざまな困難が待ち受けるとともに、百姓二人も一筋縄ではいかない。はたして、一行は無事に早川領へ逃げ延びることができるのか。――


 娯楽色が強い作品ですが、しかし黒澤明のヒューマニズムもところどころで見ることができます。戦国の世に、家を継ぐため男のように育てられた雪姫。わがままで男勝りにふるまいますが、道中、さまざまな人の世を見ることによって次第に成長していきます。彼女の純粋なふるまいには時々ホロリとさせられてしまいました。さて、演ずるのは上原美佐。ヒロイン役を決めるオーディションに4000人集まったにもかかわらず、そこでは決まらず、結局東宝の社員がスカウトしたのが彼女。短大の女学生で演技経験はゼロ。雪姫は正体がバレないように、道中は唖としてふるまうことになっていますが、これは演技の下手さをカバーするためというのを聞いたことがある気がしますが、どうなのでしょうか?
 さてさて、黒澤作品は『荒野の七人』(ジョン・スタージェス、1960年、128分)や『荒野の用心棒』(セルジオ・レオーネ、1964年、100分)、『ゴッドファーザー』(フランシス・フォード・コッポラ、1972年、178分)などさまざまな映画に影響を与えていますが、本作はあの『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』(ジョージ・ルーカス、1977年、125分)に影響を与えているそうです。レイア姫は雪姫の影響を、C‐3POとR2‐D2は太平と又七から影響を受けているといいます。ルーカス自身、黒澤映画が大好きらしく、ライトセーバーのシーンも黒澤映画のチャンバラのオマージュがところどころあるそうです。また、オビ=ワンと「エピソード6」でのアナキン・スカイウォーカーを三船敏郎にオファーしたそうですが、三船敏郎は断ったそうです。まあ、「スター・ウォーズ」は7と8しか観たことがないので、よくわかりませんが……
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2018
0724
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『グランド・ブタペスト・ホテル』レビュー

 もう少しで夏休みです。
 第二十七回目のレビューは『グランド・ブタペスト・ホテル』(ウェス・アンダーソン、2014年、100分)についてです。最近『犬ヶ島』(2018年、105分)という日本を舞台にしたストップ・モーション・アニメーション映画を製作したことでも話題のウェス・アンダーソン。それで名前を知ったので彼の代表作とされている本作を観たのですが、とってもよい映画でした。

 ストーリーは以下。
 ヨーロッパの左端にある(架空の)ズブロフスカ共和国が舞台。一人の女性が旧ルッツ墓地にある偉大な作家の銅像の前で『グランド・ブタペスト・ホテル』という本を開く。時は遡り、1985年、作家(トム・ウィルキンソン、〔若い時〕 ジュード・ロウ)は1968年に、ズブロフカ・アルプス麓の町ネベルスバートにある「グランド・ブダペスト・ホテル」でゼロ・ムスタファ( F・マーリー・エイブラハム、〔若い時〕トニー・レヴォロリ)という移民でありながら国一番の富豪になり、ホテルのオーナーでもある男から聞いた話を思い出す。ゼロの話は1932年に遡る。この年は、素晴らしいホテルとして名をはせる「グランド・ブタペスト・ホテル」に彼がロビー・ボーイとして勤務した年であった。そこには卓越したサービスを行なうとともに、裕福だが孤独な老女を性的に満足させることにも長けたグスタフ・H(レイフ・ファインズ)というコンシェルジュがいて、多くの富豪たちが彼のもとに集い、ホテルは栄華を極めていた。そんな中、グスタフに慰められていた老女の一人であるマダムD(ティルダ・スウィントン)の死亡記事が新聞に載り、グスタフはゼロをお供に、マダムDの邸宅であるルッツ城へ向かう。そこには、マダムDの莫大な遺産を目当てに、多くの親戚たちが集っていた。遺言書が開示されると、グスタフは「少年と林檎」という非常に価値のある絵画を相続することになるが、マダムDの長男であるドミトリ(エイドリアン・ブロディ)はそれを不服とし、グスタフを城から追い出そうとする。グスタフは城の執事であるセルジュ(マチュー・アマルリック)の協力を得て絵を盗み出し、ホテルに隠すが、すぐにマダム殺害容疑で逮捕され、犯罪者拘留所に収容されてしまう。明らかな冤罪であった。グスタフは拘留所内でも巧みに立ち振る舞い、脱獄をもくろむ。はたして、グスタフとゼロは疑惑を晴らし、マダムD殺害の犯人を捕まえることができるのか――

 まず特徴的なのが美術。建物から小道具から内装から衣装から映画に出てくるなにからなにまで可愛らしく、ポップかつシックにデザインされていて、映画の世界に難なく入り込むことができます。アカデミー賞の美術賞・衣装デザイン賞・メイキャップ&ヘアスタイリング賞などを受賞しているのですが、納得です。これを観るだけでも価値があります。しかもそうした美術世界の中でなかなか残酷な・ブラックなことがしばしば起こるのも面白いです。一方で、上記の美術とは裏腹のテンポの良い、王道のストーリー。これでもう画面にくぎ付けになること間違いなしです。
 さて、俳優陣を見てみますと、なんとも豪華。グスタフを演ずるのは、結構前に『シンドラーのリスト』でも紹介したレイフ・ファインズ。「ハリー・ポッター」シリーズの「ヴォルデモート」でおなじみです。老年期のゼロ・ムスタファを演ずるのは『アマデウス』(ミロス・フォアマン、1984年、180分)でサリエリを演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞した F・マーリー・エイブラハム。マダムDの長男ドミトリーを演じたのは『戦場のピアニスト』(ロマン・ポランスキー、2002年、150分)でアカデミー賞主演男優賞を受賞した(最年少受賞)エイドリアン・ブロディ。他にもジュード・ロウとかエドワード・ノートンとか、『レディ・バード』(グレタ・ガーウィグ、2017年、93分)の主演のシアーシャ・ローナンなども出演しています。
2018
0714
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『赤ひげ』レビュー

 第二十六回目のレビューは『赤ひげ』(黒澤明、1965年、185分)についてです。黒澤明の白黒映画は本作で最後になります。これ以後、黒澤明は非常に寡作になると同時に、海外へ進出していきます。また、黒澤映画に欠かせない存在だった三船敏郎も、本作を最後に黒澤映画には出演していません。そういう意味で、本作は転換点でもあります。だいぶ前に紹介した『椿三十郎』の三船敏郎と加山雄三のタッグが再び! という意味でも面白いです。
 さて、本作の舞台である小石川養生所は、八代将軍徳川吉宗による享保の改革で建てられた貧民救済施設。そして「赤ひげ」先生のモデルは小川笙船という漢方医。あの有名な目安箱に、貧民に薬を与える公的な施設の構想書を投書し、それが将軍の眼にとまって話が進んだそうです。あと百年くらいすると、『JIN-仁-』で描かれた時代になります。

 ストーリーは以下。
 長崎で蘭学を修め、幕府の御番医になる希望に燃えて江戸に帰ってきた青年医師の保本登(加山雄三)は、自分の知らないうちに進んでいた話によって、小石川養生所で働くことになる。そこでは「赤ひげ」と呼ばれる新出去定(にいできょじょう 三船敏郎)ら少数の医師が日夜貧民たちの治療にあたっていた。不本意な事態にすねた保本は、好き勝手に過ごして放逐されるのを待つが、新出は何も言わない。ある日、狂気から三人もの男を殺した美しい狂女(香川京子)が、養生所内の隔離施設から脱け出し、保本の部屋へやってくる。保本が女の美しさと彼女の子どもの頃のおぞましい思い出に隙を見せると、女は保本を殺そうとするが、間一髪のとこで新出がそれを止め、事無きをえる。この一件で少し心を入れ替えた保本は、さまざまな人びとの死や恢復の現場に立ち会い、また、医師として人としても偉大な新出の背中を見ながら、少しずつ一人前の医師に成長していく。――

 描かれている時代は、江戸時代の中でも比較的平穏な時代ですが、そこでももちろん人の生き死には壮絶なもの。まして貧しい人びとならばなおさらのこと。そうした普通の人びとをきちんと描き切っていまして、チャンバラのような派手さはないですが、とってもいい、心にしみる、素晴らしい映画になっています。ほんとにいい映画です。こういう映画があるというのは一つの喜びです。『生きる』(1952年、143分)が好きな人は絶対に好きになると思います。あとは『ブラックジャック』とか『JIN-仁-』とか好きな人も絶対に好きになると思います。まあ医療系の物語って結構ワンパターンではあるんですけど、ワンパターンだからこそ余計に医者と患者にまつわる物語が生きるというかなんというかで、いいんですよね。
 男も女も子役も老人も、みんな骨太の素晴らしい演技なのも見どころです。

 最後にセリフを引用。
新出「この病気に限らず、あらゆる病気に対して治療法などない。医術などと言っても情けないものだ。医者にはその症状と経過はわかるし、生命力の強い個体には多少の助力をすることができる。だが、それだけのことだ。現在われわれにできることは、貧困と無知に対する戦いだ。それによって、医術の不足を補うほかはない。……それは政治の問題だというのだろう。誰でもそう言って済ましている。だがこれまで政治が、貧困と無知に対して何かしたことがあるか。人間を貧困と無知のままにしておいてはならんという法令が、一度でも出たことがあるか」
保本「しかし、この養生所という設備はそのために幕府の費用で――」
新出「ないよりはあったほうがいい。しかし、問題はもっと前にある。貧困と無知さえなんとかできれば、病気の大半は起こらずに済むんだ。いや、病気の陰には、いつも人間の恐ろしい不幸が隠れている。」
2018
0707
Sat
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7月の予定

7月の予定をお知らせします。

7月10日(火) 3A207 『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』(ジョン・ポール、2007年、97分)
7月13日(金) 編入試験のため活動はお休みです。
7月17日(火) 3A204 『ULTRAMAN』(小中和哉、2004年、97分)
※DVDが貸し出し中だったため、『ガス人間㐧一号』(本多猪四郎、円谷英二、1960年、91分)に差し替えました。
7月20日(金) 2A305 『セッション』(デミアン・チャゼル、2014年、106分)
7月24日(火) 3A204 『ブタがいた教室』(前田哲、2008年、109分)
7月27日(金) 2D205 『隠し砦の三悪人』(黒澤明、1958年、139分)

 今月もよい映画がそろったのではないでしょうか(珍しく邦画の方が多いですね)。

 話は変わりまして、映研の夏恒例バーベキューですが、8月8日、9日、10日のどれかに行おうかなと考えています。詳細が決まったらまたお知らせいたします。夏旅行の方も同様です。
2018
0705
Thu
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『セルピコ』レビュー

 すでに夏。
 第二十五回目のレビューは『セルピコ』(シドニー・ルメット、1973年、124分)についてです。主演は「ゴッドファーザー」シリーズで有名なアル・パチーノ。この前の年に『ゴッドファーザー』(フランシス・フォード・コッポラ、177分)、次の年に『ゴッドファーザー PARTⅡ』(200分)、1975年には『狼たちの午後』(シドニー・ルメット、125分)と、この辺りのアル・パチーノの活躍っぷりはすごいです。ちなみに、アル・パチーノの身長はウィキペディアによると166cm。これでマフィアのボスとかを演じて様になっているのはすごいです。

 ストーリーは以下。
 麻薬取引の現場でフランク・セルピコ(アル・パチーノ)という警官が撃たれ、病院に運び込まれる。物語はセルピコの過去にさかのぼる。
 子どもの頃からの夢であった警察官になったセルピコは、使命感に燃えるが、ニューヨーク市警は彼の理想とは程遠いもので、同僚たちは日常的に収賄を行なっていた。それでもめげずに制服警官として功績をあげ、刑事になるためのキャリアを積むなかで、正義感が強く、のちにニューヨーク市長の調査部に配属されるブレア(トニー・ロバーツ)と知り合い、友人となる。私服刑事となり、とある分署の麻薬課に配属されたセルピコは、勤務早々何者かに賄賂を渡される。ブレアに相談し、その上で調査部長に報告するが、部長からはただ忘れろと言われるだけであった。そこでは、刑事たちが組織的に売人たちから賄賂を徴収し、私服を肥やしていたのだった。どうしても金を受け取ろうとしないセルピコは署内で孤立する。セルピコは署内の汚職を警察上層部に相談するが、彼の予想以上に警察組織の腐敗は進んでいた。はたして、彼は正義を貫くことができるのか。――

 実話を基にしていると聞いて、驚きました。警察組織がものすごい腐敗しています。「賄賂を受け取らない奴は仲間として信用できない」と、同僚刑事が言うほどです。映画公開から45年経っていますが、現在のアメリカ警察はどうなのでしょうか? 日本の警察はここまで腐敗していないといいのですがね。
 警察を舞台にした物語にあるような、カッコいいアクション、明晰な推理、悪を成敗する爽快感といったものはありません。淡々と、セルピコという男の生き様を追っていきます。つまり、映画の出来はセルピコを演ずるアル・パチーノにかかっているのですが、さすがの演技。潜入捜査のためヒッピーのような恰好をしているのですが、だらしない風貌なのにとてもカッコいいんですね。その他、確かな実力をもった脇役たちが映画を支えます。決して派手ではないのですが、じっくりと見入ってしまう、そんな映画です。